大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和34年(く)46号 決定

少年 F(昭一五・六・二生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、自分は叔母を訪ねて行つたところ、上つてはいけないといわれたので面白くなく思い、二三日後叔母をおどかそうとして刃物を持つて行つたが、途中で悪いと気がついたので帰ろうとしたところ警察官に見付かつたのである、自分で悪いと気がつき帰ろうとした位であるから、このことでまさか少年院に送られるとは思つて居らず、保護団体に預けられる程度と考えていたのに、中等少年院送致の決定をされたのは不服であるというのである。

そこで関係記録を調査するに次の事実が認められる。即ち少年は幼少のころ実母に死別し、その同じ年、実父Gが応召出征したので爾来祖母、叔母の手許で養育され、父が復員した後引き取られて小学校に通学したが、Gが再婚してから家庭内が円満を欠くようになり、Gは少年を中央児童相談所に依頼して昭和二十四年五月○○○学園に入所させた。その後○○学園にも入所したが、少年はしばしば学園を逃走し、そのため両親との音信、連絡も絶え、双方所在がわからず、昭和二十七年三月には浮浪児として○○実務学校に収容され、孤児として待遇されていたところ、昭和三十一年四月両親の所在が判明し、実父の許に引き取られた。しかし長く両親と別れていたことと、継母に子供が生れたことなどから、少年と両親との間は以前にもまして折合が悪く、少年は実父の家に戻つて間もなく住込奉公に出るようになつたが、一個所に落着いて働くことができず、そばや、食堂、クリーニング店と数回勤め先を変えたあげく、昭和三十四年三月からは職に就かず浮浪の生活を続けているうち、本件非行を行うに至つた。少年は生来知力に軽度の欠陥あり、身体の発育も十分ではなく、その性格、行状は粗野、軽卒、遅鈍、怠惰、衝動的であり、家庭内においては実父、継母とも折合悪く、勤め先においてはしばしば雇主と喧嘩をするような状態であり、今回は実父Gにおいても少年を引き取り監護すること承諾せず極力保護施設に入所せしめることを希望している有様である。

少年の右のような知力、性格、行状、経歴、環境と本件の非行内容とを総合して考えると、少年を矯正善導するためには中等少年院に収容するのが適切な方法と認められるから、原決定は正当であつて本件抗告は理由がない。

よつて少年法第三十三条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判長判事 中西要一 判事 久永正勝 判事 河本文夫)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例